金属錯体上での電荷マニピュレーション

分子ナノサイエンスと分子スピントロニクスへの挑戦

金属錯体で物性を制御し、材料を創造する

金属錯体は、遷移金属イオンとその周りの有機物や無機物(”配位子”といいます)からなっています。金属イオンは柔軟に酸化状態とスピン状態を変えることができますが、その状態は周りの配位子と金属周りの幾何構造に強く依存します(「配位子場理論」)。配位子によっては、複数の金属イオンを橋かけでき(即ち、”架橋配位子”です)、その連続的な結合様式は無限格子(Metal-organic frameworks; MOF)を形成し、金属イオン間の磁気的相互作用(磁気相関)や電子移動(電子共役)を媒介します。即ち、金属錯体の構造次元性を原子・分子レベル(ナノレベル)で制御し、同時にその電子状態やスピン状態を調整することにより、分子性の磁石や導電性材料を創ることができます。一方で、MOFの作るナノレベルの”空孔”も化学の舞台として近年注目されてきています。ジャングルジムに入り込んで遊ぶ子供のように、小さな分子はMOF(分子)のジャングルジムに入ることができます。ナノ細孔への分子の吸着に伴って生じる挿入分子とMOFとの化学的な相互作用は、その挿入分子のみならず、MOF自身の電子状態やスピン状態、構造を変えることになります。このように、活性分子の吸脱着に伴う化学的な摂動や化学反応を基に、MOFの電子状態やスピン状態を変換(物理的応答)することが自在にできると予想されます。多様性と柔軟性、ナノ・メゾ制御可能な高設計性を持ち合わせた金属錯体が、新たな分子システムを創造します。


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Research Projects in Miyasaka Lab.

Research Project 1: ナノサイズの世界でスピンを操る

World of Nanosized Molecular Magnets
ナノサイズ(10億分の1メートル)は原子(イオン)や小分子のサイズであり、軌道の特徴や量子状態が支配する”極小”の世界です。このような原子やイオンの固有の量子的特徴を活かした分子を設計又は観察すると(すなわち、分子のナノ・メソ制御!)、バルクとは全く異なる現象や機構を発見することができます。これがまさしく、”ナノサイエンス”であり、このナノサイズ世界を制御することが”ナノテクノロジー”です。我々は、磁石の起源である”スピン”に着目し、ゼロ次元の孤立分子(単分子磁石;Single-Molecule Magnets)や、一次元の鎖状分子(単一次元鎖磁石;Single-Chain Magnets)の量子的スピンを外場(温度、磁場、圧力、光、電場...etc)により制御することを目的に研究を行っています。量子的スピンの外場自在制御(自在スイッチ)は、近未来ナノテクノロジーの重要要素の一つです。

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Research Project 2: 錯体格子上で磁気秩序と電子輸送を同時に操る

Rational Design of D/A–Frameworks
カギは”電荷移動・電子移動”の制御です。電子移動はスピン発生と電子輸送(またはホール輸送)と直接関わりますし、低エネルギー電荷移動状態はバンド内電子移動を有利にしますし、且つ磁気的相互作用を強固なものにします。例えば、電子ドナー(D)と電子アクセプター(A)の単純な反磁性・中性DA系では、DからAへの一電子移動により、それぞれS = 1/2のスピンをもつイオン性D+A–が得られます。さらに、D2A系では、一電子移動により、D0とD+の混合原子価状態が得られることになります。これらのD/A系をそのまま多次元格子に展開できたら、電子移動・電荷移動により格子上を電子がホッピングし、且つスピンが多次元に秩序配列する状態を得ることが期待できます。このようなシステムは、まさに分子デバイスや分子スピントロニクス研究における最高のターゲットになります。

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Research Project 3: DA一次元鎖で電荷を操る –共有結合鎖での中性ーイオン性転移–

Synergistic Control of Physical Properties in Chains
格子内で中性状態からイオン性(電荷が分離したイオンペア)の状態に転移することを、中性ーイオン性転移(N–I転移)と言います。共有結合で繋がったDA一次元鎖(···DADADA···)で中性ーイオン性転移(···DADADA··· → ···D+A–D+A–D+A–···)を外場(温度、磁場、圧力、光、電場...etc)で自在に制御できると、転移に伴うスピン基底状態変化、過渡的な導電性、電荷移動による双極子モーメント変位や構造変位による誘電応答を同時にアウトプットとして利用できます。特に共有結合鎖では、架橋を介して磁気的な交換相互作用を効果的に獲得できるため、N-I転移の磁場制御に大きな期待がかかります。2011年に我々は世界で初めてとなる共有結合鎖でのN-I転移を見出し、その特異な段階的な電荷移動を解明しました。


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Research Project 4: 多孔性酸化還元活性格子で分子吸蔵と電荷移動を操る

D/A-MOFs toward the Control of Physical Properties
酸化還元活性且つ伝導性や磁気秩序が期待される多孔性配位高分子を設計し、電子的に影響を受けやすい小分子の挿入によりホスト・ゲスト相互作用を図り、その相互作用に誘起される格子の物理的性質を制御することを目的に研究を行っています。挿入分子と格子との電子的な相互作用は、格子の電荷のゆらぎや新しい磁気秩序を起こします。その電荷のゆらぎや電子移動を磁性や電子輸送能変化、構造変化などのアウトプットシグナルとして捉えるのです。上記のResearch Project 2で設計した多孔性導電性磁石を用いれば、高相転移磁石の新たな設計法を提唱できるかもしれません。また、このような系は、細孔内を酸化還元反応場として利用することも可能かもしれません。空間の化学と物性化学とを結び付けた最先端研究を展開しています。



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Research Project 5: 小分子の吸脱着で構造ダイナミクスを操る

Signals from Gated Adsorption Behavior
構造の柔軟性は、金属錯体の特徴の一つです。例えば、分子配向・置換基配向が、ある一軸ポテンシャル異方性を持つ場合、配向の秩序・無秩序を外場制御できたら、誘電応答が期待できます。しかし、一般には自然界はモーメントを打ち消し合って中性の状態(常誘電相)に落ち着こうとします。そこで、分子の出し入れによる構造ゲートの開閉や分子の立体的な障害を使って、構造のダイナミクスにカギをかけられたら・・・。ガス吸着状態を構造変位の誘電特性でモニターすることを目的に研究を行っています。




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Research Project 6: ユビキタスガスで磁石を変える

Gas Responsive Porous Magnets
近年分子多孔性材料が注目されています。Metal-Organic Framework(MOF)やPorous Coordination Polymer(PCP)という言葉を聞いたことがあるかもしれません。それらは、分子で作られた格子で、ナノサイズの空孔に小分子を吸着することができます。一般的な吸着剤のような感じですが、多様に修飾可能な”分子”でできた格子ですから、その分子修飾により、吸着させるゲスト分子を選択したり、付加的な機能を持たせることができます(できると期待されています)。我々は、多孔性の”磁石”に着目しています。磁石でありながら、ごく一般的なO2、N2、CO2などのガス分子を吸着させます。そのガス分子の吸着によって、磁石の性質ががらりと変わる”変わる磁石”を開発しています。2018年、世界で初めて酸素を吸着して磁気相が変わる磁石を開発しました。
 

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Research Project 7: 酸化還元活性な錯体格子中で電子とイオンの輸送を操る:新しいイオン電池材料を求めて

Creation of Ionic Energy
電子ドナー・アクセプターユニットからなる酸化還元活性な配位格子(D/A-MOF)は、"電子の授受"に対して、格子内および格子ー空孔ゲスト間のような多彩な反応場を与えるだけでなく、その格子で囲まれた空孔および表面を利用することで、"イオンの輸送"を可能にしたユニークな電子・イオン協奏システムを創造する可能性があります。このような系は、充放電可能な二次電池材料に応用できます。格子のD/Aの種類や電荷状態を精密に調整できる本系を用いることで、新しい電池材料の開発を行っています。




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